マニュアル考

本校ではICT教育の一環としてiPadを導入しています。
スマホには慣れている生徒もICT教育では苦戦しています。

本校では管理対象Apple IDとMicrosoftアカウントを配布しているのですが学校が配布するものですので制限がかかっています。
ICTの便利さを実感するには「自由」が不可欠だと思っているので、学校配布のアカウントではなく、各自でGoogleアカウントを作成してもらいました。
Google アカウント作成のためにマニュアルを作りました。
驚いたことに多くの生徒がまともにGoogle アカウントを作成できませんでした。

生徒が苦手とするものに「フォルダ管理」があります。
これについてもマニュアルを配布しているのですがうまくいきません。
クラウドは「バックアップ」や「保存」だけではなく、「作業場」としての役割もあります。
クラウドを「作業場」として活用することで「共同制作」が可能になります。
ところが、マニュアルを配布しても「共同制作」がうまくいきません。

ある時、苦戦する理由は「マニュアルを読まないから」であることが分かりました。
目の前でマニュアルを逐一確認させながら一つ一つ作業をさせるとうまく行くのです。
マニュアルを読まない高校生が目につきます。

親世代(バブル世代)はマニュアル世代と言われマニュアル本が全盛でした。
しかし、保護者もマニュアルを読まないことに気づきました。
保護者にも学校からの連絡が届くようにスマホにアプリをインストールして設定してもらっています。
当然マニュアルを配布しますが、マニュアルを読まずに何もできない保護者が散見されます。
偉そうに書いていますが、私を含め教師もマニュアルをきちんと読まなくなってきているのを実感します。

こういったマニュアルを読まないといった風潮にはiPhoneの登場が影響していると思っています。
iPhoneの売りの1つは直感的なUIでした。
ポインティングデバイスはなんと指!
スクリーンを指で直接タッチして操作する。
これ以上に直感的な操作ってあるでしょうか?
直感的な操作でマニュアル不要。
これがiPhoneの売りの1つでした。

さらに、「情報収集の仕方の変化」もマニュアルを読まない原因の一つでしょう。
「すぐに結論に辿り着きたがる」といった風潮があるように思います。
たとえば、YouTubeは早送りで見る人が多いようです。
音楽のイントロの長さが短くなってきていると聞いたこともあります。
ビジネスの現場でら、かしこまったメールよりも「短文で済ませることができるSNS」を支持する声が多いとも耳にします。
私たちの生活スタイルは「時間をかけてゆっくりと情報を収集するもの」ではなくなってしまったのでしょう。
文章を配布してもさっと読み流してしまって自分には関係ないと早とちりする生徒のなんて多いことか。

2019年に公表されたPISA学習到達度調査の結果では日本の15歳の読解力の順位がとても低かったとのことでした。
マニュアルを読まないというのは不利になることが多いと思います。
コロナ禍で給付金を申請するにもマニュアルを読まなければなりません。
奨学金を申請するにもマニュアルを読まなければなりません。
大学に出願するにもマニュアルを読む必要があります。
「書類不備」ということで不利になるのは申請者本人です。

新学習指導要領の国語で「現代の国語」が必履修科目になったのは上記のような背景があるのかもしれませんね。

マニュアル考
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